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名古屋名物「ういろう」の歴史
2021.04.05
「名古屋名物と言えば何?」
そう聞かれて何を思い浮かべるだろう。平成の名古屋メシブームに乗り全国的にも知名度を上げた「ひつまぶし」「味噌煮込みうどん」などを挙げる人もいれば、ちょっとコアなところを狙い「あんかけパスタ」「台湾ラーメン」など好きな人は毎日でも食べたいやみつきグルメを挙げる人もいるに違いない。
そんな中、「ういろう」と答えればきっと「そんなド定番」と笑われるかもしれない。しかし逆を言えば、それほど「ういろう」は名古屋名物として古くから浸透していることに他ならない。おそらくどんなサイトの名古屋お土産ランキングでも必ず上位に「ういろう」が入るはずだ。ちなみに筆者の上司(愛知県出身)は子供時代、恵方巻よろしくういろうの一本食いをすることが何より贅沢で幸せな時間だったそうだ。
しかし、そんな名古屋人の誇り「ういろう」は実は名古屋発祥の食べ物ではない。
諸説あるが、室町時代に大陸で元が明に滅ぼされた際に、日本に亡命してきた元国の公家・陳家の子孫が作ったという説が起源として有力だ。
陳家は日本に帰化した際に、元国時代の役職だった「外郎(ういろう)」を名乗った。医術にたけていた外郎家は天皇家や幕府に薬を献上。その薬の効能はすさまじく、重宝されたことからまずはその薬が外郎家の名前から「ういろう」と呼ばれるように。さらに外郎家は外国使節団の接待のためにお菓子も作り、それが現在残る「ういろう」の起源なのだという。
陳家が最初に滞在したのは博多。その後は京都に移ったりもしたが、名古屋には全く縁がなかった。なのになぜ名古屋でういろうが名物となりえたのか......それは東海道新幹線開通がひとつの転機となったのだ。
名古屋・大須にある青柳総本家。創業は明治12年。(「最高のオバハン 中島ハルコ」では田山涼成演じる老舗ういろう屋「紫風堂」のお店として第二話から登場している)
当初は蒸し羊羹を扱っていたが、その後、ういろうも販売するように。昭和6年に名古屋駅で立ち売りを始め、これが後の名古屋名物となるきっかけとなる。
大ブレイクを果たしたのは1964年の東海道新幹線開通。そこで車内販売を開始したことで、「ういろう」=「名古屋」が一気に全国に浸透したのだ。
今のようにネットなどですぐに情報が手に入る時代ではない中、明確なブランディング戦略と口コミによる情報拡散。楽市楽座で商魂たくましい商人を集めた織田信長の名古屋(尾張)だからこそ、「ういろう」は名古屋名物たりえたのかもしれない。
とは言え、ういろうは名古屋だけのものでもない。他にも福岡県や山口県など各地で名物となっているので、各地のういろうを食べ比べしてみても楽しいかもしれない。ちなみに起源となった外郎家のういろうは、現在でも神奈川県・小田原市で買える。(漢方薬も取り扱っている)
ひとつだけ確かなのは、元祖も本家もなく、ういろうは老若男女が楽しめる日本が誇るお菓子である、ということだ。